2010/10/31

景気付けに一発目投下!

というわけで、新verHP(完全版)のお目見えまでの間に、長期更新を怠っていた間にちまちま書いてたものを少しばかり公開しようと思います。

今回の代物は某所で投下した一品。リリカルなのはで例によってユーノくんモノ。
映画2弾とかゲーム2弾とか言うけど、きっと彼の出番はほぼ無いんだろうなあ……ちぇ。






――ユーノ・スクライアはヘビースモーカーである。
大量の本を扱う無限書庫の司書長としてそれはどうかという意見もあるだろうが、実際そうなのだから仕方ない。そもそも喫煙するようになった理由が仕事のストレス解消というのだから、ある意味では書庫が原因と呼べるかもしれないが。

「…………」

さて、そんな彼の喫煙を知っている者は実は非常に少ない。それこそ片手の指の数で足りる程である。
何故かと言えば理由は簡単、「バレたら止めさせられる」。これ一本に尽きた。
なにせこのご時勢、ミッドチルダでも喫煙者に対する向かい風は強い。公的な場所での喫煙は限られた場所以外では禁止。飲食店などでも全面禁止の波がどんどん広がっていく。お陰で喫煙者の肩身は日に日に狭くなっていく始末である。そんな今、知り合いに日に数十本消費するというユーノのヘビースモーカーっぷりを知られればどうなるか……結末は言うまでもない。仕事関係以外での唯一の楽しみを奪われるわけにはいかないのだ。
一つ。限られた極一部の場所を除いては喫煙をしない。キツくても我慢する。
一つ。喫煙中の通信はSOUND ONLY。映像をつける前には煙草関係をきっちりしまう。
一つ。お楽しみ中室内は常に空気清浄機全開。ファ○リーズ必須。匂いは絶対に残さない。特にたまに遊びに来るヴィヴィオにバレたら非常に拙い。

「…………」

その他「ここまでやるか」というような努力をしつつ、彼はこの秘密を守り通してきた。よって前に言ったとおり、彼がスモーカーである事実を知る者は非常に少ない。
知っているのは、司書長と考古学者、双方の仕事での補佐をし、喫煙習慣隠蔽の手助けもしてくれている彼の秘書。以前司書長室に来た時狼形態であったが故、人形態でならわからなかっただろう僅かな匂いで気づかれてしまったザフィーラ(当人曰く、「他者に迷惑をかけない限り個人の嗜好に口を出すつもりはない」とのこと)。同じくヘビースモーカーであり、時には友人として煙草の銘柄の話に花を咲かせることもある司書の一人。
そして――。

「……あの。にこにこして目の前にずっといるの止めてくれませんか、シャマルさん」

今、彼の目の前にいる女性のみである。





No Smoking!






「ユーノくんが今口にくわえているものを離してくれたらすぐにでも離れますよ?」

「やです」

「じゃ、離れません」

「離れてください」

「やです♪」

このやりとりももうお馴染みになってしまった光景である。先程書類を持ってきた彼の秘書も今の光景を見た瞬間、「またか」といった顔で呆れた顔をしていた。
まあ彼女がユーノの喫煙を知ってからは暇さえあればこうしてやってきているのである。そんな感想が出てくるのも致し方ないだろう。

「大体煙草は肺を始めとして全身を蝕むんです。お酒にも近いことがいえるかもしれませんが、あちらは適量なら寧ろ人体にいい面も沢山あるくらいです。
ですが煙草は違います。たとえ一本でも確実に体にとって悪影響を及ぼすんです。
それを日に何十本も! このことがどれだけ貴方の健康を損ねているか、ユーノくんだってわかっているんでしょう?」

「わかっていますがやめません」

「どうしてですか!」

だん! と司書長室の机を叩く。このやりとりもこれまで何度繰り返されたかわからないほどだ。
ふう、とこれまた何度目になるかわからない溜息をつき、小器用に煙草は咥えたまま、ユーノは呟く。

「そう言われても唯一の楽しみですし。それに他の人に迷惑をないはずです。ずっと見てきたならわかってると思いますけど」

「そう思っても迷惑をかけるものなんです。例えば副流煙とか」

それまでとは若干違う切り口で攻めてきたシャマルに、しかしユーノは慌てず騒がず、煙が出ていない煙草を掲げながら言った。

「家で一人の時ならともかく、人前では基本的に無煙のものしか吸ってません。同席しているのが喫煙者だけって時は例外ですが。
これでも色々と我慢しているんですよ? あんまり喫煙習慣のこと広まるのもイヤですから」

「それを抜いても書庫で喫煙っていうのはどうなんです? 本に触れる職業でスモーカーというのは絶対よくありませんよ。というかそもそもここは火気厳禁でしょう? 前にシグナムとアギトが追い出されてましたよ?」

「あれは火とか言う以前に何が理由なんだか書庫内で喧嘩し始めたからなんですけどね。しまいには魔法まで使い始めてましたし。
……それはともかく、これは電子タバコですよ。だから実際に火がついてるわけじゃありません。勿論吸うのもこの司書長室でだけです。そもそも火のつく煙草自体、司書長室に入ったら秘書に一時没収されるんですよ? 『万一吸われては困りますから』って」

言って彼はシャマルの手の甲に煙草の火元を軽く押し付けた。一瞬怯んだ彼女だったが、実際に熱くないことにすぐ気がつき、ほっと肩をなでおろす。確かにこの煙草なら万が一にも発火元となることはないだろう。さすがは司書長、本のことも考えず喫煙に耽るということはなかったらしい。よく見れば今二人がいる部屋には本が一冊もなく、書類も机の中に収められているのか見られない。煙草の匂いがついて喫煙が知られる可能性がある、ということも考えた上なのだろうが、気を遣っているのは本当なのだろう。
とはいえ、こうもあっさり返されては喫煙習慣を止めさせたいシャマルとしては面白くない。

「でも煙草を吸うと健康が…」

「健康を維持したいならこの職業止めてますって。業務は不定時気味かつ残業過多、さらには暗い上に無重力、黙っているとあっという間に視力と筋力が大変なことになりそうな環境。健康被害云々で言うのならこっちもなかなか大したものですよ?」

「これなんかいい例です」と言いながらユーノは眼鏡の縁を指で軽く叩く。事実彼の視力は書庫で働くようになってから落ちたのだから仕方ない。
む、と声を詰まらせるシャマル。だがしかし、それで止まるようなら彼女とてとっくに説得を諦めている。

「じゃあ聞きますけど、どうして喫煙なんて続けてるんですか? わざわざ無煙のものや電気式のを買ったり、自室にもあんな高い空気洗浄機を置いたりして。結構金銭的な負担も大きいと思いますけど?」

「お金についてはアレです。どこぞの黒ずくめと同じく仕事関係外の趣味がない上に、アイツとは違って独り身ですからね。これくらいしかお金を使う理由がないんですよ。
理由は……色々ありますけどやっぱりストレスですかね。学者の世界とか、あれで意外と権謀渦巻く面倒なところだったりするんですよ。そこに来て自分は運良くそこそこの成果を上げることが出来ちゃってますから。それでなくても『無限書庫のトップ』って看板は考古学とかからすると羨まれるんです」

咥えていた電子たばこのカートリッジを入れ替えながら答えるユーノ。事実、仕事関係では味方も多いが敵も少なくなく、妬み嫉みの目で見られたことも一度や二度ではない。「時間はかかるが探せばどんな情報でも見つかる」無限書庫の力は、特に考古学と言った分野では喉から手の出るほど欲しいものなのだ。それを自由に使える(と思われている)司書長の地位は嫉妬の目が向けられるには十分だろう。
実際ユーノも喫煙習慣が本格化したのは学会などに関わる頻度が増えてからだと記憶している。
それを聞き、ぐでんぐでんになるほど酒を飲んで「上層部のアホどもが~」とのたまう自身の主の姿を思い出す。分野は違えど彼も似たような境遇なのだろう。いや、彼女にとっての自分達のような存在がいない分、より辛いものがあるかもしれない。
そう考えてしまうとあまり強い言葉は出せず、シャマルはそれでも、と呟いた。

「ストレス解消の方法なら、他にもあるでしょうに…」

「急がしくてわざわざストレス解消にとる時間がありませんでしたし、当時は色々精神的にも追い詰められてたんで他に方法が思いつかなかったってのもありますけどね。
確かなのはの件とかも重なっちゃいましたから」

「う……」

再び声を詰まらせる。本来なら「それは理由になりません」と言いたいところだったが、その話題を出されると当時の憔悴振りを知っているシャマルとしては反論もし辛いものがあった。年のことで言い返そうにもスクライア一族には飲酒・喫煙の年齢制限が無いらしく、その方向では攻撃できそうにない。

「でも、今なら止められるんじゃないですか? ミッドチルダなら完全にニコチン依存症を治す方法もありますし、そもそも今ユーノくんが吸っている電子タバコはニコチンは殆ど含んでいないものですから、本数の割には禁断症状とかも多分そんなに苦しくないでしょうし」

「退きませんねシャマルさんも……」

「あなたの係りつけも一任されている身としては喫煙習慣といったことはどうしてもやめさせたいんです。
それで実際どうなんですか?」

「まあ全く出来ないって言うわけじゃないとは思いますけど、そうすると口が寂しいですし」

ずい、と顔を寄せてくるシャマルに少し怯みつつもユーノは答える。対してシャマルは「ふむ」と頷くと、彼が咥えていた煙草をひょいと抜き取る。そして代わりにといった感じでポケットからあるものを取り出し、その口に咥えさせた。

きゅぽっ

「…………」

「これなら口が寂しくないですね♪」

一瞬の沈黙。何を咥えさせられたか気づいたユーノは、静かに大きく息を吸うと――
そのおしゃぶりを、思いっきりぶん投げた。

「だからっておしゃぶりはないでしょうが!? せめて飴とかでしょうこういうときはせめて! 
とゆーか齢二十を超えた身でおしゃぶりを口に突っ込まれるとは思いませんでしたよ僕!!」

恥ずかしかったのだろう、顔を赤くしながら全力で突っ込むユーノ。実際しゃぶらされた身からすればたまったものではないだろう。対してシャマルは部屋の片隅に落ちたおしゃぶりとユーノの顔を交互に見る。

「むー、似合うと思ったんですけどね」

「似合いたくないです。というか、そもそもなんでこんなもの持ってるんですか。どこで手に入れたんですか」

「それは秘密です。
うーん、でも困りましたね。他に口を寂しくさせないものというと……
あ」

煙草を奪い返そうとするユーノから捌きつつ、思案するシャマル。数秒なにやら考えていたようだが、思いついたのか、ぽん、と手を叩いた。
その隙をついて、ユーノは煙草を奪い返す。
消されていたスイッチを付け直し、再び咥えようとして。

「何を思いついたか知りませんけど、やめるつもりはさらさらありませんって。というかまた変なことを考え ――っ!?」


その口を塞いだのは煙草ではなく、シャマルの唇だった。
ただ重なっただけではなく、彼女の舌が入り込んでくる。それはユーノのものと絡み合い、ぴちゃぴちゃと音をたてた。

「ちょ、ん…ぐっ……ぷはっ」

たっぷり二十秒は経ったか、絡めさせられていた方のユーノが疲れてしまうくらいに舌を絡めさせあった後、シャマルは離れる。

「ってちょ、何をするんですか!?」

「これなら煙草の代わりになるかしら?」

反論するユーノに悪戯っぽく笑い、シャマルは立ち上がる。その手には再び奪ったのだろう、ユーノの煙草があった。

「とりあえずこれは貰っていくわね。その代わり――」

そういいながら笑顔は絶やさぬまま、彼女は中指を口元に軽くあてる。その唇は彼女とユーノの唾液が入り混じったものでてらてらと輝いていた。
思わず少し唾を飲んでしまうユーノに、彼女は続ける。

「口が寂しくなったらいつでも呼んで下さい。いつでも“おくすり”をあげますから」

そういってウインクし、部屋を去って言った。
残されたユーノは、というと。

「……ニコチンよりそっちの方がよっぽど中毒性がありそうだなあ」

天井を仰ぎ見ながら、そうひとりごちるのであった。
















ちなみに、その『お薬』によってユーノの喫煙習慣が治ったかどうかは――
また、別の機会に語るということで。

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